心の病であるうつ病。
世界保健機関(WHO)の発表によると現在、うつ病で苦しんでいる人が世界で3億2200万人にのぼるという報告があります。
日本も例外なく、うつ病患者数はこの10年間で少なくとも18%増加し、生涯の中で15人に1人はうつ病にかかると言われるほど、誰でもかかりうるありふれた病気になりました。
もしかしたらこの記事を今、読んでいるあなたやあなたの大切な人がうつ病で苦しんでいらっしゃるのかもしれません。
そんな多くの人が抱えるうつ病は完治するのも困難だと言われる中、近年、うつ病の症状を改善することができるとしてアロマテラピーが注目を浴びています。
アロマテラピーがなぜ、うつ病に効果的なのか?
その驚くべき効果を徹底検証しながら、うつ病へのアロマテラピーの活用方法とおすすめの精油ブレンドを紹介していきたいと思います。
アロマテラピー効果の鍵となるうつ病の原因
まずはアロマテラピーのうつ病への効果を理解する上で知っておきたいうつ病の発症のメカニズムについて確認していきましょう。
気分が落ち込む、自信を失う、何事も楽しめない、眠れない、食欲がないといった状態が続くうつ病には、軽程度のものから重度のものまであり、またいろんなタイプがあるようです。
一般に、うつ病は脳のエネルギーが低下し、脳が上手く機能していくれないために物事の捉え方が否定的になる上に、普段なら乗り越えられるような些細なことが大きなストレスとなり、これがまた悲観的な考えや自信を喪失したりするという悪循環をもたらします。
ではなぜ、脳が上手く機能しなくなるのでしょうか?
原因は特定できない場合が多いようですが、有力な説が長期にわたる身体的・精神的ストレスに晒されたことで、脳内の神経伝達物質であるセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンの放出量の不足により脳の機能障害が起きているとされるものです。
神経伝達物質は脳内に入ってくる様々な情報の伝達役を担っています。
電気シグナルで送られきた情報量に合わせて、神経細胞のシナプス間隙で神経伝達物質が放出され、次のシナプスの受容体がそれを受け取ることで情報が伝達されます。
実は私達の感情や気分は、この神経伝達物質の種類やバランスによって大きく変化し、「嬉しい」、「悲しい」、「イライラする」といった感情もこの神経伝達物質によって作り出されます。
その神経伝達物質の中でも特にセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンは’三大神経伝達物質’と呼ばれ、
- セロトニン:心を落ち着かせる、精神の安定
- ドーパミン:前向きな気持ち、幸福感や快感
- ノルアドレナリン:元気、やる気、集中力
といった私達の感情や精神の状態をつくります。
うつ病はこの3種類の神経伝達物質の量の減少およびその働きが低下することで脳機能が低下することで発症するのではないかと言われ、現在のうつ病治療でもこの不足した神経伝達物質を回復させることが焦点となっています。
ここまでで、うつ病の発症するメカニズムのキーワードとして、ストレス、脳機能の低下、3種類の神経伝達物質の不足があることが分かりました。
実はここに’アロマテラピーがうつ病に効果的であるヒント’が隠されているのです。
アロマテラピーがうつ病に効果的である4つの理由
まずアロマテラピーですが、芳香療法と呼ばれ、植物から抽出した芳香成分を含む精油(エッセンシャルオイル)を使うことで、自然治癒力を高め、本来の心と体のバランスを取り戻すことを助ける自然療法のひとつです。
ではこのアロマテラピーがなぜ、うつ病を改善することができるのでしょうか?
これからアロマテラピーがうつ病に効果的である4つ理由を説明していきたいと思います。
理由①香りのもつ心理的作用
心地よい香りや自分の好きな香りを嗅ぐと気分が良くなり、また逆に、不快な香りや自分の嫌いな香りを嗅げば気分が悪くなるという体験は誰にでもありますよね。
これはつまり、’香りは私達の心理面に影響する’ということを示しています。
実際にアロマテラピーにおいて使用する精油(エッセンシャルオイル)の香りを嗅ぐことで、そこに含まれている芳香成分が電気シグナルとなって直接、脳内の大脳辺縁系に達して作用することが科学的に解明されています。
つまり、精油の心地よい香りを嗅ぐと、私達の情緒活動と関連する大脳辺縁系の働きが高められるため、明るく前向きになれたり、やる気が出たりといった心理的にポジティブな感情が助長されるようになります。
さらに、大脳辺縁系は私達の生理的欲求(食欲、睡眠欲、性欲)や記憶も司るため、うつ病によって低下した’人間らしく健やかで楽しみをもって意欲的に生きるモチベーション’をアロマテラピーで高めていくことが期待できます。
*アロマテラピーの香りのもつ効果について詳しく取り上げた別の記事がありますのでご参考下さい。(関連記事)【アロマテラピー】エッセンシャルオイル(精油)の香りは嗅ぐだけでも効果が凄い!その2つの秘密とは?
理由②視床下部への有益な働きかけ
上記理由①の中で記した、精油の芳香成分が直接、作用する大脳辺縁系には’視床下部’という間脳の一部も含まれるのですが、ここもアロマテラピーがうつ病の症状を改善するポイントになるところです。
まず視床下部には下記の3つに働きがあります。
- 自律神経系を統括する
- 脳下垂体と協力して内分泌(ホルモン)系を司る
- 免疫系と連携する
つまり視床下部とは、人間が変化する外界の環境や体調に対応し、生体恒常性(ホメオスタシス)を保ち続けるといった、’私達の生存維持に関わる器官’なのです。
実はうつ病は、過剰なストレスに長時間さらされることで視床下部がバランスを失った状態にあります。
バランスを失った視床下部は当然のことながら、自律神経を乱し、体内のホルモン調整が上手くいかず、免疫力を低下させることになります。
ここにうつ病が心の病でありながら体のさまざまな不調が現れる理由があるのです。
しかしながら、上述したようにアロマテラピーで扱う精油は香りを嗅ぐだけで、その芳香成分が電気シグナルとなって視床下部に働きかけることで、自律神経やホルモンを整え、免疫力を高めることでうつ病の症状の改善が期待できます。
視床下部の状態を良好に保つアロマテラピーは、うつ病にかかっている場合だけでなく、普段の健康維持であったり、うつ病の予防にも役立ちそうですね。
理由③神経伝達物質の分泌を促す
実はアロマテラピーで扱う精油は、その芳香成分が作用する大脳辺縁系内で特定の神経伝達物質の分泌を促すことが解明されています。
つまり、上述したように、うつ病の発症の原因に脳内の三大神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン)量の不足があるのですが、何と精油にもこれらの神経伝達物質を分泌を促すものがあるのです。
これら3種類の各神経伝達物質のもたらす心理的作用とその分泌を促す代表的な精油がこちらです。
- セロトニン:精神的緊張の緩和、安眠、鎮静作用
- 精油の例ーラベンダー、ローマンカモミール、マジョラム
- ドーパミン:快楽、幸福感、意欲を高める作用
- 精油の例ーローズ、ゼラニウム、パルマローザ
- ノルアドレナリン:活力、元気ややる気が出る、刺激作用
- 精油の例ーローズマリー、ジュニパー、レモングラス
うつ病の起こる原因と思われる三大神経伝達物質の不足にダイレクトに働きかけるアロマテラピーは、うつ病に効果的であることが納得できますね。
ちなみに上記の3種類以外のいくつかの神経伝達物質の分泌を促す精油もいくつかあるのですが、これについてはまた詳しく別の記事で取り上げたいと思います。
理由④精油の特性を利用した効果
アロマテラピーがうつ病を改善できる効果として最後に注目したいのが、精油の芳香成分のもつ特性です。
それぞれの精油には様々な種類の芳香成分がある程度決まった割合で含まれており、心と体のバランスを調えるための特定の作用、’特性’をもっています。
例えば、ラベンダーに含まれる酢酸リナリルと呼ばれる芳香成分には、神経を鎮静しリラックスを促し気持ちを落ち着かせる効果があります。これをラベンダーの特性として、鎮静作用、抗うつ作用などと呼んだりしています。
ちなみに酢酸リナリルはクラリセージ、ネロリ、プチグレンなどの精油にも多く含まれていますので、その中から自分の好きな香りのものを選んでみると良いでしょう。
他にも、うつ病に見られる食欲低下や不眠、体がだるいなど身体的な症状に対しても効果的な特性をもつ精油がたくさんありますので、症状別に合った精油を選んでみるのもおすすめです。
アロマテラピーでうつ病を改善しよう
アロマテラピーがうつ病に効果があることが分かってきたところで、いよいよ実際にアロマテラピーを使ってみましょう。
おすすめの精油ブレンド
ここではうつ病によくみられる心と体の症状に合わせて、効果が期待できる精油をピックアップしました。
ここに挙げている効果別の精油リストですが、1種類だけ選んでも良いですし、同じリスト内にある精油を2〜3種類ブレンドしても香りの相性と相乗効果があるようにしてあります。
- 心身をリラックスさせたい時/よく眠れない時
- ラベンダー、ローマンカモミール、マジョラム、ネロリ、ベンゾイン
- 気分が落ち込んでいる時/自信を失っている時
- ローズオットー、ゼラニウム、パルマローザ、イランイラン、ジャスミン、グレープフルーツ、クラリセージ、サンダルウッド
- 情緒が不安定で感情がうまくコントールできない時
- ゼラニウム、ベルガモット、スイートオレンジ、マンダリン、ローズウッド、フランキンセンス、プチグレン
- 気分や意欲を高めたい時/体がだるく重く感じる時
- ローズマリー、ジュニパーベリー、レモングラス、レモン、ペパーミント、バジル
- 精神的なストレスからくる食欲の低下を改善したい時
- ベルガモット、スイートオレンジ、マンダリン、グレープフルーツ、プチグレン、ネロリ、ラベンダー、ローマンカモミール
精油の効果はもちろん、自分の好きな香りを選んでブレンドするのもまたアロマテラピーの楽しいところですし、何より心地よく感じられる香りはうつ病の改善にとても有益です。
簡単にできるアロマテラピーの方法
うつ病で心や体が元気がない状態でも、すぐに簡単にできるアロマテラピーの取り入れ方を紹介します。
使用する精油は上述した「おすすめの精油ブレンド」の中から1種類を選ぶか、または2〜3種類をブレンドして使用して下さい。
芳香浴
リラックスして過ごせるように家の中や、しっかり眠れるように寝室で使用してみるのも良いでしょう。
- ハンカチやティッシュペーパーに精油を1〜2滴垂らしたものの香りを嗅いだり、枕元など側に置いておく。
- 芳香器(アロマライトなど)に精油を3滴程垂らす。
外出先でストレスを感じたり、心が不安定になりそうな時は、精油を垂らしたハンカチをカバンに忍ばせて持ち歩くのもおすすめです。
アロマバス
ぬるめのお湯を張った浴槽に精油5滴までを垂らして、ゆっくり入浴します。お湯に垂らした精油はその揮発性がさらに増すことで含まれる有効成分が効率よく鼻から取り込まれ、脳へ働きかけてくれます。
またアロマバスは皮膚からも精油を取り入れることができ、アロマテラピーの効果をさらに高めてくれます。
ご家庭でリラックスしながら、好きな時に簡単に取り入れられるのもアロマテラピーの良さですね。
最後にもうひとつ、うつ病を改善するのに最高のアロマテラピーの方法をお伝えします。
それは、アロママッサージです。
アロママッサージはセルフマッサージも可能なのですが、その効果を最大限享受するためにはプロのアロマセラピストによる施術を受けられることをおすすめします。
*アロママッサージがアロマテラピー効果を最大にする最高の方法である理由について別の記事で詳しく説明していますので、是非、ご参考下さい。(関連記事)【極上のアロマテラピー】アロママッサージ効果で健康も美容も幸せも手に入れる!良いこと尽くしの3つの秘密
補足&注意点
自然療法であるアロマテラピーは現代医学にとって代わるものではなく、治療ではありません(医師の監視の下、病院内で補完的代替医療として取り入れられることは可能です)。
現代医学とアロマテラピーは、考え方、作用するレベル、活用方法がそれぞれ異なります。
現代医学は薬や手術を用いて病変が起きた組織を処置していくのに対し、アロマテラピーは心と体を調和し自然治癒力を高めます。互いの利点を活かして健康を保つことができます。
うつ病の判断や治療は必ず医師に相談して下さい。また自己判断でうつ病の薬を止めてアロマテラピーを行わないようにして下さい。
まとめ
いかがでしたか?
うつ病の症状を改善するアロマテラピーについて、その驚くべき効果について説明しました。そして実際にアロマテラピーをうつ病の改善に活用するためのおすすめの精油ブレンドとその使い方について紹介しました。
それでは最後にまとめたいと思います。
- うつ病は長期的なストレスに晒されたことによる脳機能の低下、とくに三大神経伝達物質の分泌低下が原因とされる。
- アロマテラピーの精油の香りの心理作用がうつ病の否定的・悲観的な気持ちを前向きに明るくさせる。
- 精油の芳香成分が視床下部に作用し、うつ病で乱れた自律神経、ホルモン、免疫力を調える効果がある。
- 精油には、うつ病の原因とされる不足した三大神経伝達物質の分泌を促す作用がある。
- 精油の芳香成分のもつ特性が、うつ病の心や体の諸症状を改善する作用がある。
- 特性や香りを活かした精油の選択とブレンドで、芳香浴やアロマバスを活用するのはうつ病の改善に有益である。
心と体が辛い時に精油の香りを嗅ぐだけでうつ病の症状が緩和できるのはアロマテラピーのありがたいところですよね。